御堂筋と道頓堀通が交わる角に、堂々とした純和風の建物を構える[はり重 道頓堀本店]。大阪の人にはおなじみの建物ですが、初めて訪れる人は、観光客でにぎわう街の真ん中に、これほど落ち着いた佇まいの店があることに驚くかもしれません。
「すき焼きの老舗」という印象が強い名店ですが、実は一つの建物に日本料理、はり重グリル、カレーショップ、精肉店の4つが入っています。
記念日のすき焼きから、家族で囲む洋食、一人で気軽に味わうカレー、弁当やコールビーフの持ち帰りまで。その日の予算や時間、誰と訪れるかによって使い分けられるのが魅力です。
今回は、4代目社長の藤本有吾さんに、各店の楽しみ方や長年守り続けてきた肉へのこだわりなどを伺いました。
国産黒毛和牛の雌牛を一頭買い。だから「はり重」の肉はおいしい

「はり重」の創業は1919年。初代社長の藤本喜蔵さんが堺で小さな店を開いたのが始まりです。その後、当時の一大繁華街だった新世界ですき焼き店と精肉店を営み、1948年に現在の道頓堀へ移転。日本料理に加えて洋食も始め、芝居を楽しむ旦那衆や花街の人々、役者、芸人、文化人らに親しまれてきました。
扱うのは、国産黒毛和牛の雌牛のみ。一頭買いした肉を自社の冷蔵倉庫で状態を見極めながら熟成させます。
「雌牛は脂の融点が低いとか、熟成によって旨みが増すとか、今ならなぜおいしいのかを調べることができます。でも昔は、そうした情報がない中で、実際に食べてみて『こっちのほうがうまい』と選んでいた。昔の人はすごいなと思います」と藤本さん。
本店の大きな特徴は、同じ建物の中に4つの店があること。2、3階の日本料理店では仲居さんが目の前ですき焼きを炊き、1階の「はり重グリル」では昔ながらの洋食を楽しめます。さらに、気軽に立ち寄れる「カレーショップ」と、店の原点である精肉店も並んでいます。
「この4つの店で長く営業を続けてこられたのは、初代が奇をてらわず、基本のおいしい味を作ってくれたから。今、店で使っている割り下やデミグラスソースも、昔から味をほとんど変えていないんですよ」と、藤本さんも初代の手腕やアイデアに感心しているそう。
道頓堀で愛され続ける4つのお店について、詳しく紹介していきます。
ハレの日には日本料理店ですき焼きやしゃぶしゃぶを

誕生日や還暦祝い、接待など、特別な日には日本料理店へ。純和風の個室で、すき焼き、しゃぶしゃぶ、会席などを楽しめます。着物姿の仲居さんが目の前で鍋を仕立ててくれるのも魅力です。

はり重のすき焼きの割り下には、黒毛和牛の骨から取っただしを使います。たっぷりの肉を最後まで飽きずに食べられるよう、味付けはやや薄め。鍋の中で牛脂が溶け、食べ進めるにつれて味わいが深まっていきます。

藤本さんは、道頓堀の真ん中で、仲居さんが仕上げる特別なすき焼きを若い世代にも体験してもらいたいと考えています。
「恋人の誕生日に、ちょっといいイタリアンやフレンチに行ったりしますよね。そのときに、すき焼きもいいなと、若い人の選択肢に入る店でありたい。若い人には、老舗というと少し心理的なハードルが高いかもしれませんが、堅苦しい店ではありませんから。それに、すき焼きって、うれしいときに食べることが多いでしょう。家族や仲間など、好きな人たちと囲むことが多く、嫌いな人とは食べない料理です。だから、すき焼きって、とてもハッピーな料理だなと思っています」
ランチにもおすすめ!昔ながらの洋食が楽しめる「はり重グリル」

ビーフフィレカツレツやハンバーグ、ビーフシチューなど、洋食メニューがそろう「はり重グリル」。家族とのランチから、少し改まった食事まで幅広く利用できます。

初めて訪れる人に食べて欲しいのは、ポタージュスープやビーフステーキ、エビフライなどがセットになった「ランチA」。一皿にいろいろな料理が盛られた大人のお子様ランチみたいで嬉しくなります。精肉店の人気商品・コールビーフやハムをごはんと主に炒めた「はり重ライス」、贅沢したい気分のときはサーロインステーキなど、メニューを見ながら何にするか悩むのも楽しい時間です。
おいしさの秘密は精肉店ならではの素材と手間を惜しまない調理法です。「フライの揚げ油には牛脂を50パーセント使用して、甘い香りとコクをまとわせます。デミグラスソースは和牛のスジからだしを取り、大鍋で1週間炊く昔ながらの製法です」と藤本さん。

落ち着いた空間でゆったり過ごせるので、道頓堀で質の高い洋食を楽しみたいときにもぴったりです。
黒毛和牛の旨みが詰まったカレーを気軽に!「カレーショップ」

一人での食事や、道頓堀散策の合間に立ち寄りやすいのが「カレーショップ」。手頃な価格ながら、こちらでも国産黒毛和牛を使用しています。
「普通のお店だと、カレーに入れるレベルの肉ではないのですが、こちらだけ『和牛を使いません』というのは、やっぱりうちの店ではない。値段とのバランスは難しいですけど、肉はちゃんとええものを使っています」と藤本さん。味には妥協しません。

看板メニューのカレーライスは、辛さはおだやか。ルーの中にもしっかりお肉の旨みやコク、野菜の甘味がとけこんでいるのが魅力。ビーフカツカレーやトンカツカレーなどもおすすめです。実は、カレー以外のメニューもラインナップしていて、牛肉を玉子でとじてごはんにのせた「ビーフワン」や、「すき焼き丼(スペシャル牛丼)」なども味わえます。すき焼きや洋食とはまた違った、カレー店ならではのスタイルで、はり重自慢の牛肉のおいしさを楽しめるお店です。

名物のコールビーフは手土産にも。弁当や黒毛和牛がそろう「精肉店」

御堂筋に面した精肉店では、すき焼き肉やステーキ肉をはじめ、コールビーフ、味噌漬け、牛肉の佃煮、弁当やサンドイッチなどを販売。家庭で味わう肉から、大阪らしい手土産まで選べます。
現在の道頓堀では珍しい精肉店ですが、1948年に移転した当時は、商店主の多くが店の上で暮らし、周辺にも生活する人がたくさんいました。お中元やお歳暮の文化も盛んで、街の中心に肉屋があるのはごく自然なことだったと藤本さんはいいます。

「昔は商店街の店主さんたちがよく買いに来てくださっていました。でも、今は住んでいる人も少ないし、贈り物の文化も変わりました。ただ、本店で買うことに価値を感じて、わざわざ来店してくださる方も多いので、精肉店も大事にしていきたいと思っています」

こちらではお弁当も販売しており、大阪松竹座が営業していた頃は、事前に予約して観劇の幕間や行き帰りに買う人も多かったそうです。「松竹座さんとうちのお弁当をセットで考えてくださっている方が多かったんですね」と、当時を懐かしみます。

自宅用だけでなく、贈り物にもよく選ばれる、はり重を代表する品が「コールビーフ」です。国産黒毛和牛の雌牛を使い、和風のタレで仕上げるローストビーフで、あっさりとした味わいの後に、肉の旨みがじんわりと広がります。牛肉の佃煮や味噌漬けなども、ぜひ試してみてください。
「食べた人に幸せになってほしい」長い歴史の中でも思いは変わらず
「はり重 道頓堀本店」にある4つの店に共通するのは、国産黒毛和牛の雌牛を使い、一頭を大切に生かし切る姿勢です。特別な日のすき焼きにも、普段使いのカレーにも、持ち帰りの弁当にも、肉屋としての矜持が通っています。
「お肉にこだわり、そのお肉で幸せな体験をして帰ってもらう。そこは創業当時からずっと変わらない思いです。道頓堀は、かつての芝居の街から観光の街へと大きく姿を変えましたが、私たちは50年後も100年後も、どんな形、どんな大きさであっても、この場所で、はり重としてやっていたいと思っています」
味はもちろんのこと、懐かしさを感じるレトロで落ち着いた空間、老舗ならではの心地よいサービスなども一度体験すれば「はり重 道頓堀本店」が愛され続けてきた理由がわかります。なんば・道頓堀を訪れた際には、その日の気分や目的に合わせて、はり重の味を楽しんでみてはいかがでしょうか。
なんば駅からのアクセス

大阪メトロ御堂筋線「なんば駅」からは、北東改札を利用すると便利です。

改札を出たら、左手にローソンを見ながら直進します。 エレベーターをご利用の場合は、こちら。

そのまま突き当たりまで進むと、14番出口への案内が見えてきます。案内に従って右へ進み、階段を上がりましょう。

地上に出たら、御堂筋を左手に見ながら道頓堀方面へ進みます。

しばらく歩くと、右手に「はり重」の店舗が見えてきます。
エレベーターをご利用の方へ

階段を避けたい場合は、出口15B(なんばHIPS方面)のエレベーターをご利用ください。

突き当たりにパチンコ店があり、その手前にエレベーターがあります。
地上に出た後は、御堂筋を左手に見ながら道頓堀方面へ進むと、はり重に到着します。
店舗情報
店名/道頓堀本店 日本料理
住所/大阪市中央区道頓堀1-9-17
営業時間/11:30~15:30(LO14:30)、17:00~21:00(LO20:00)
定休日/火曜日(祝日・12月は営業)
電話番号/06-6211-7777
店名/道頓堀本店 はり重グリル
住所/大阪市中央区道頓堀1-9-17
営業時間/11:30~15:00(LO14:30)、17:00~20:30(LO20:00)
定休日/火曜日(祝日・12月は営業)
電話番号/06-6211-5357
店名/道頓堀本店 カレーショップ
住所/大阪市中央区道頓堀1-9-17
営業時間/11:30~15:00(LO14:30)、17:00~20:30(LO20:00)
定休日/火曜日(祝日・12月は営業)
電話番号/06-6213-4736
店名/道頓堀本店販売店
住所/大阪市中央区道頓堀1-9-17
営業時間/10:00~20:00
定休日/火曜日(祝日・12月は営業)
電話番号/06-6211-2980

フリーランスのエディター&ライター。なんばの劇場に足繁く通うお笑い好き。美味しいものに目がなく、雑誌やテレビでおすすめグルメやスイーツを紹介することも。
